前橋地方裁判所 事件番号不詳 判決
本店
前橋市立川町七十三番地
撚糸製造販売業兼製材業
被告人
上毛撚糸株式会社
右被告人会社代表者取締役
住居
前橋市六供三百七十番地
伊藤正直
右被告人上毛撚糸株式会社に対する法人税法違反被告事件につき検察官某関与の上審理を遂げ次の通り判決する。
主文
被告人上毛撚糸株式会社を罰金八拾万円に処する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
被告人上毛撚糸株式会社は本店を前橋市立川町七十三番地に置き資本金百万円(全額払込済)で、その目的は一、各種糸委託賃撚糸製造加工販売、二、製材業及び木工品玩具の製造並に販売、三、座繰生糸の製造並に販売、四、前各号に付帯する一切の事業等を業とするものであるが、被告人会社の業務の主宰者である同会社常務取締役兼総務部長千葉光正は同会社の右業務に関し法人税を免れようと企て同会社の昭和二十一年八月十一日から昭和二十二年五月二十五日迄の事業年度に於て五十八万二千五百円の普通所得があつたに拘らず之を同会社の正規の帳簿に記載せず別にメモを作成し或はメモにも記載せず不正の行為により隠匿し、同年七月二十五日頃右事業年度の法人税確定申告書を前橋税務署長に提出するに際し普通所得なしと虚偽の申告を為し以て同年度分の法人税三十一万百二十四円をほ脱したものである。
証拠の標目(中略)
法律の適用
法人税法(昭和二十二年三月三十一日法律第二十八号)第四十八条第五十一条刑事訴訟法第百八十一条
本件における争点は被告人会社に普通所得五十八万二千五百円があつたかどうかである。
前記諸証拠に依れば被告人会社は鐘ケ淵紡織株式会社の株式一万一千六百五十株を一株五十円の額面の割で五十八万二千五百円で肩替りを申込まれ、被告人会社は右自已株式の代金五十八万二千五百円を昭和二十一年四月岡戸理作から借受け被告人会社の取締役伊藤正直外七名の役員及び従業員の名義で取得し、岡戸理作に対する右借金の弁済として昭和二十一年四月縫糸三百貫を四十二万円として返済し、昭和二十二年三月下旬被告人会社所有の絹サージの売却代金九十二万円余の一部を以て右借金の残額の弁済にあて岡部理作に対する五十八万二千五百円の借金は全部弁済した。然し岡戸理作からの借金及びその弁済にあてた縫糸絹サージ等は被告人会社の正規の帳簿に記載されていない同会社所有の財物であつて之が処分による収入金も正規の帳簿に記載しなかつた。所謂簿外の財産であり簿外の借金であつたものである。
被告人会社は五十八万二千五百円に相当する自已株式を事実上取得したかどうかが争点となるのである。自已株式は原則として取得することは出来ないことは勿論であるが有価証券としての自已株式を或る適法の形式をとつて取得することは現実の生きている経済現象として往々実在するのである。当公廷における証人足立守一の証言によれば八名の名義で形式上株式を取得したがその実質上の権利は右八名の名義人は取得したのではなくその実質上の権利は被告人会社が取得したのであることを認めることが出来る。被告人会社は右株式の実質上の取得者であり実質上の権利者であるから被告人会社の意図するままに昭和二十二年九月頃八名の名義人から三十三名の名義人に再分配することが出来たのであつて八名の名義人の意思は右再分配に少しも関与していないのである。被告人会社が実質上の権利者であるから三十三名に右株式を贈与しそれに付随する条件として株式額面に相当する金員の債務を負担せしめ之を債務額とする借用証書を三十三名から被告人会社に提出せしめ同会社は五十八万二千五百円に相当する債権を取得したのである。(甲第十五号証の一乃至三十二)弁護人はこの借用証書は無意味のものであると主張するのであるが被告人会社において会社の営業不振等の場合は何時でも右債務の履行を請求することが出来、また、右債務を免除することも出来るのである。斯く観れば被告人会社は五十八万二千五百円に相当する益金を保有するものと謂はねばならない。
税法上に於ける会社の益金は合理的に実質的に観察しなければ税法の企図する目的は達せられないであらう。当裁判所は弁護人主張の如きものの実質を離れた形式論理を採用することは出来ない。